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CSWブログ

北海道に生まれた民間宇宙開発企業カムイスペースワークス。 略して「CSW」 ブログはこちらに引越しました。
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重力損失(永田、再掲)
 NASAが深宇宙探査用大型ロケットの開発に着手するというニュースが話題になってます。NASAからの正式発表はこちら。メインエンジンはシャトル用SSMEをベースにした液酸−液水。密度が小さい液体水素エンジンは大推力を出しにくいため、固体ロケットブースタも併用だそうです。

ええと、有人ですよね?

一応確認ですが、使い捨て、ですよね?

正直、やっちまったなあ、という第一印象なんですけど、取り敢えず続報を待ちます。どうして「やっちまったなあ」と思うのか色々理由が有りますが、例えば下記記事を参照ください。移転前のURLで2007年1月に掲載した記事です。補足すると、シャトルにおいては、「高空まで使用する再使用エンジンを目指した技術開発だから、まあ、しようがないかなあ」と思ってました。今回の設計はどう考えても理解できないです。


重力損失(永田) | 宇宙工学         2007/01/21 17:54
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 いいロケットとは、排気速度が大きいロケットです。排気速度は推進剤の組合せでほぼ決まります。CAMUI君の排気速度が固体ロケットよりも大きいのは、ポリエチレンと液体酸素という組合せを選んだのが理由です。そこには技術的オリジナリティはありません。ポリエチレン−液体酸素の組合せで燃料過剰な燃焼条件を実現するというのは凄いことではありますが、これはCAMUI君の技術的価値の中のおまけみたいなものです。最大の技術的価値は、燃料のガス化速度が大きいことにより推力が大きい、という点にあります。ロケットの推力は排気速度[m/s]×推進剤流量[kg/s](=推力[kg・m/s^2 = N])に等しいです。推進剤流量は酸化剤(液体酸素)流量と燃料(ポリエチレン)流用の和です。酸化剤流量を増やすのは簡単です。バルブを開けばいいんですから。対して、燃料流量を増やすのは難しいです。ポリエチレンをガス化させるのは大変ですからね。これを増やさないと、燃料過剰な最適条件を保ちつつ推進剤流量を増やすことはできません。これを可能にしたのがCAMUI君の偉いところです。それでは、どうして推力を増やすことがそんなに重要なんでしょうか。
 
 ロケット工学者は運動量こそ最大の価値だと思っています。より大きな運動量を得るためであればエネルギをドブに捨てることを何の躊躇も無く平気でやります。運動量は、推進剤の質量[kg]×排気速度[m/s](=運動量[kg・m/s])で決まります。これを時間[s]で割ると、力の単位である[N = kg・m/s^2]に次元が等しくなりますね。つまり、推力とは、単位時間当たりに得られる運動量のことです。逆に、推力に時間をかけると力積になり、これが運動量の変化に等しいのでした。従って、限られた量の推進剤でより多くの運動量を得ることにしのぎを削るロケット工学者にとって、何よりも大事なのは排気速度です。だからロケットの性能は排気速度で評価されるのでした。
 
 ということは、ロケット工学者は推力×時間で表される力積=運動量が大事なのであり、推力には興味が無いのだ、というと、実はそうではない場合があります。どういう場合かというと、地上からの打上げで最初に働く初段ロケット、すなわちブースターロケットを設計する場合です。
 
 地球周回軌道に衛星を投入するために必要なことは水平方向の速度ベクトルを獲得することなのですが、地表近辺には大気層が有って高速で飛行するには邪魔なため、まずは上昇するという非本質的なことが行われます。これがブースターロケットの仕事です。ほぼ上向きに加速することになるわけですが、これは地球の重力加速度と競争しながら加速するということを意味します。
 
 地球の重力加速度は 9.8[m/s^2]です。落下を始めた林檎は、1秒後には9.8 m/sの速度に、2秒後には19.6 m/sの速度になっているわけです。この加速度を1Gといいます。例えば100 kgの機体に200 kgf の推力をかけると、2G の加速度が得られます。けれども、ブースターロケットのように上向きに加速した場合、このうち 1G が地球により奪われてしまい、実際の加速度は 1G になってしまいます。実効加速度が半分になるわけです。実効排気速度が半分になったと考えてもOKです。液酸−液水エンジンにより450秒の比推力が得られていたとしても、実は実効比推力は225秒であった、ということになります。この損失を重力損失といいます。
 
 上記例で、自重が100 kg、比推力が 450 秒、推力が 200 kgf の液酸−液水エンジンの実効比推力は 225 秒です。対して、同じ自重で、比推力が 280 秒、推力が 1 tonf の固体ロケットブースタだったらどうでしょうか。加速度は 10 G、そのうち 1 G が地球に奪われ、残りの 9 G が実効加速度となります。比推力の 9 割が実効比推力になるわけですね。280 秒に 0.9 をかけて、実効比推力は 252 秒となります。なんと液酸−液水エンジンより高いではありませんか。
 
 このような状況は、打上げ直後で起こります。機体が重いからです。推進剤が消費されて機体が軽くなるに従って加速度が増加し、重力による加速度減少分が相対的に小さくなる打上げ後半では、このようなことは起こりません。推力 200 kgf で機体重量が 100 kg であれば実効比推力は225 秒でも、機体が 50 kg まで軽くなれば実効加速度は 3G、実効比推力は 337.5 秒で、固体ロケットブースタに負けません。つまり、打上げ直後では、多少は比推力(すなわち排気速度)が小さくても、推力が大きいロケットの方がより大きな運動量を得ることができるということになります。そういうわけで、H2 ロケットでもスペースシャトルでも、初段では液体ロケットよりも比推力が劣るけれども大推力が得られる固体ロケットブースタが併用されています。

 僕はそもそも、機体が重たい初段において、大推力を得ることが難しい液酸−液水エンジンを用いることには反対です。アポロ計画に使用されたサターンロケットではこのような理由から初段に液酸−液水エンジンが採用されず、ケロシン−液酸エンジンが採用されました。その結果、固体ロケットブースタを必要としない極めてシンプルで信頼性が高いシステムに仕上がっています。
 
 重い機体を上方に加速しなければならないブースターロケットでは、比推力が大きいだけでは駄目で、推力が大きいことも求められます。推力を増やすためには推進剤流量を増やす必要がありますが、ハイブリッドロケットの推進剤流量は固体燃料のガス化速度で制限されます。このような状況があるので、ブースターロケットの開発を目指した場合、固体燃料のガス化速度を大幅に増やすことに成功した CAMUI 君の技術的価値が生きてくるのです。
 
 なお、「実効排気速度」、「実効比推力」という言葉はここで永田が勝手に使っている言葉であり、一般的な専門用語ではありませんのでご注意ください。

| エンジニアリング | 12:49 | comments(5) | trackbacks(0) | pookmark |
 ペイロードに負荷される準静加速度及び動的な加速度の観点から見ても固体またはハイブリッドロケットが有利なのでしょうか?衛星から見ると、同じ打ち上げ能力であれば、準静的加速度条件が緩やかなロケットのほうが、衛星に搭載できるペイロード質量が上げられます。下記をご参照ください(日本航空宇宙学会の論文集にアクセスできるパスワードが必要です)。
 http://www.jstage.jst.go.jp/article/astj/10/0/10_75/_article/-char/ja/


| 高野 敦 | 2011/09/15 9:57 PM |
永田先生へ
>NASAが深宇宙探査用大型ロケットの開発に着手…
 これって中止になりましたアレスロケットの代替のように見えます。
 火星行きを実現しようとするならば,何らかの大型打上げロケットは必要になるでしょうから。
 個人的には自分も液酸/ケロシンの方が安全でかつ信頼性が高いと思いますが,アリアンも5になって第1段を液酸/液水+固体ブースターにしましたのでこちらが標準になってくるかもです。
 ひょっとして液酸/液水+固体ブースターの方が「ペイロード」を大きくできる打上げロケットになるのでしょうか。
 その辺りも含めまして引き続きご解説をよろしくお願いいたしますm(_ _)m。
 
| 炬燵猫 | 2011/09/15 10:19 PM |
わかりきっていることをわざわざひっくり返して悪いほうを選ぶときって

1.本当に設計者が経験不足
2.経済的理由

このどちらかだと思うんですが・・・・

まさかケロシンには今年からNASA相手でも燃料税をかけるからとかそんな落ちだったりして・・・。
ケロシン燃料の代表格ジェット燃料でさえわずかですが燃料税かかっていますし・・・。
| 高橋徹哉 | 2011/09/15 11:57 PM |
高野さん、ご訪問有難うございます。論文も拝見しました。千尋君もご活躍の様子で嬉しいです。

加速度を始めとする打上げ環境が厳しくなると構造重量にマスを取られて衛星重量が減少するというのはご指摘の通りと思います。重力損失と構造重量増加による損失との関係ではどこかに最適値が有りそうですね。その辺はトレードオフですが、液体、固体の話で言うと、大型ロケットでは断然、液体が有利と思います。推進剤の価格が1桁以上違いますので。


炬燵猫さん:

>アリアンも5になって第1段を液酸/液水+固体ブースターにしましたので

恐らく、これもシャトルの呪縛じゃないですかね。手持ちのヘヴィリフター用大型液体ブースターが液水しか無いんでしょう。シャトルの登場以来、世界中のロケット開発資産が液水ロケットに重点配分された後遺症がまだまだこれからも続くんだろうと思います。シャトルのSSMEは単段式再使用往還機用ブースタだから二段燃焼の液水でも「まあ、技術目標から考えればそういう選択かなあ」と思えたんですよね。

>ひょっとして液酸/液水+固体ブースターの方が「ペイロード」を大きくできる打上げロケットになるのでしょうか。

両者の配分で比推力と推力の平均値を弄り易いので、最適解は得やすいかもしれませんね。でも有人で固体ブースタは使ってはいけないと思いますよ。アボートに必要な推力カットオフができないですから。シャトルの場合も、ブースタが燃えてる120秒間はアボートができない魔の時間と言われてました。


高橋さん:

>このどちらかだと思うんですが・・・・

シャトル関連の技術者への雇用対策みたいですね。SSMEの技術は単段往還機向けのもので、使い捨てヘヴィリフターに転用されるのを目にすると、メッサーシュミットMe262を爆撃機に使用せよと命令したヒトラー並の判断ミスと思ってしまいます。

単段宇宙往還機といえば。。。
燃焼屋はやるべき仕事をやり尽したぞ。
材料屋もっと頑張れ。
| 永田 | 2011/09/16 7:49 AM |
アングロサクソンはぼっこを束ねて翼をつけるのが好きなんだと思うことにしましょう・・・・
| 高橋徹哉 | 2011/09/16 8:15 PM |









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