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CSWブログ

北海道に生まれた民間宇宙開発企業カムイスペースワークス。 略して「CSW」 ブログはこちらに引越しました。
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空き缶パルスジェット(永田)
  「空き缶」と「パルスジェット」のアンド検索でググると、このように、多くの動画がヒットします。飲料缶の底に穴を開け、中身を抜き、適当な調整を行うと、簡単にパルスジェットを作ることができるというものです。口で説明するより、動画を適当に見て頂く方が早いです。実は当研究室では、設立当初(1996年)から、高校生や中学生から模擬実験依頼が有った時のネタに、空き缶パルスジェットエンジンを使っています。こんなに流行ってるということに最近になって気付きました。

 僕が初めてこの種のパルスジェットの存在を知ったのは、修士課程の学生だった頃です。ジョージア工科大学の Ben T. Zinn 先生による "Pulsating Combustion" というサマリー論文(その分野の研究の現状を纏めた論文)で紹介されていました。その論文では Combustion Pot という名称で、ジャム等の広口ガラス瓶に金属製の螺子蓋をしたものを使っていました。

 蓋に直径 13 mm の穴を開け、瓶にアルコールを数cc入れます。瓶の内壁もアルコールで濡らします。これにより、瓶はアルコール蒸気と空気の混合気で満たされることになります。穴に炎を近付けると、混合気が点火し、燃焼ガスが勢いよく吹き出ます。瓶の圧力が元に戻ると噴出は収まるのですが、ガスにも慣性が有りますので、噴出が止まったころには瓶は負圧になっています。これにより空気が新たに吸引され、瓶内のアルコール蒸気と混ざり、次の燃焼が起こります。これが1秒間に数十回の周期で繰り返されます。

 こんなことが本当に起こるのか。実験してみようということになり、院生室での酒宴の余興になりました。1990年前後だったと思います。手元に広口ガラス瓶が無かったので、缶飲料を購入し、底に穴を開けました。各自が最適と思う穴径を用意し、缶が暴れないように万力で固定し、順に点火します。しばらくは単発のジェットで終わるものが続いたのですが、初めて振動燃焼が続いたのを見たときは、そのあまりに教科書通りの現象に驚きました。

 最初の振動燃焼は数秒で終わりました。燃料が残っているのに、何故振動が止まるのか、という議論が始まりました。論文を確認したところ、"燃料が有り、Pot が加熱に耐える限り、振動燃焼は継続する" と書いてあります。何かの理由で共鳴周波数が移動してしまうのだろう。空気力学的な共鳴周波数は音速に比例する。音速は温度の平方根に比例する。燃焼の継続により缶が加熱され、缶内ガスの温度が上がり、音速が変わるから振動が止まるのではないか、という推論が最も多くの支持を集めました。確認しようということで、濡れ雑巾で缶を包み、再度実験すると、数十秒にわたり振動燃焼が継続しました。この推論で間違い無かったのだろうと今でも思っています。

 振動燃焼を手軽に観察できて面白いため、この飲み会に参加していたメンバーは、僕を含めて、色々な場所で紹介したようです。1996年に北大に赴任して間も無く、理科教育センターから依頼頂いて、道内中学の理科教員を対象とした研修で講演させて頂いたことがあります。そこで空き缶パルスジェットを紹介したところ、非常に好評で、道内の理科の先生を中心にちょっとしたブームになったことがあります。

 Combustion Pot のオリジナルは1930年代で、1933年にオランダで発明が登記され、1938年にスイスで特許が取得されているそうです。さて、それがどのような経緯で今の日本でのブームに繋がっているか、これが謎です。飲料缶の底に穴を開けるというのは Zinn 先生のサマリー論文には無く、我々のその場のアイデアでした。どうも今検索して引っ掛かる空き缶パルスジェットのルーツを辿っていくと、あの日の飲み会に至るような気がするのです。それともどなたか、1990年以前に飲料缶でパルスジェットを作った人、いますか?


| エンジニアリング | 11:59 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |









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